日本で個人金融部門を独立させ、個人相手のビジネスを本格的に進め、多店舗展開を始めたのは八九年のことである。プラザ合意の後、他の外資の銀行や証券が積極的に展開したのとほぼ同じ時期であり、シティバンクが他の外資の金融機関と同じように見られても仕方がなかったとも言える。しかし、発想や戦略がまったく違っていたのである。そして、アメリカ本社で八年連続の赤字を耐えた実績がある。したがって、日本でも何年も赤字が続いた時でも、その先の大きな果実があることを信じて、耐えることができたのである。「当社が多店舗展開を日本で始めた時に、日本の銀行と同じ土俵で正面から勝負を挑んだと思った人が多かったようですが、それは違います。世界九四か国、三五〇〇店のネットワークを生かして、日本の銀行にできないサービスを始めたのです」具体的に何をしたのかと言うと、外貨預金の取り扱いを始めたのである。シティバンクの日本の店では一三の通貨で預金ができる。この一三の通貨を一つの口座で管理することができるマルチマネー口座を作ったのである。つまり、円でも預金できるし、為替の変動や利回りを考えて、外貨でも預金できる。円や金を外貨預金に切り替えることもできるなど、これまで日本の銀行ではなかったサービスを始めたのである。日本では今、一年間、銀行に預金して普通預金の場合は〇・二五%という信じられないような金利である。これに対して、アメリカやカナダ、オーストラリアなどでは、四〜五%の金利は普通で取れる。これは魅力的である。外貨預金の恐さは為替変動である。外貨預金をした後、円高になると、少しくらいの金利など為替差損で飛んでしまう。しかし、外貨のまま預金できるのであれば、一〇〇ドルは一〇〇ドルのままであり、円安になるのを待つことができる。シティバンクはまた、インターナショナル・キャッシュカードというシステムも始めた。「日本で円で入れて、アメリカでドルで受け取る」というようなキャッチ・コピーでテレビCMを流して宣伝したものである。円で預金すると、世界六〇の国で現地の銀行のATM機から、現地の通貨でお金が引き出せるのである。正面から日本の銀行と闘うのではない、日本の銀行がしていないニッチ・マーケットを狙ったのである。これからの時代は、他にはない、ここにしかないサービスというのが大切である。それでその会社の存在感が出てくる。それをもとに会社をアピールしていける。