いくつものファションの形を知った

2011.05.06

問題は、自分の選ぶもののテイストを一つに統一できないことだった。ある日、知人の画家の催すパーティーがあった。私は白絹のシャツブラウスに、パリで買ったグレーの長いプリーツスカートをはき、ウエストを絞った黒のテーラードジャケットにエナメルの紐結びの靴という格好で出かけた。祝いの席だったので、いつもより念入りに化粧をした。髪もきちんと巻いた。華やかな夜にふさわしく、深い赤の口紅を丁寧に塗った。しかし、そのパーティーのほとんどの客はノーメイクだった。小池事務所時代の仲間の姿をみつけて駆け寄ると、彼らは異質なものを見るような目で私を見た。そしておかしそうにクスクス笑うと、中の一人がこう言った。「どうしちやったの、まるで演歌歌手みたい」私は一瞬、彼女の言う意味がわからなかった。演歌歌手?モノトーンのシンプルな服を着ているのに?確かに化粧をきちんとして、髪は巻いているけれど、決してけばけばしくなどなかったはずだ。なぜそんなことを言うのだろう。もしその日、私がアヴァンギャルドな服に身を包み、ノーメイクで行ったとしたら、彼らは歓迎してくれただろう。たまたま、私はコンサバな格好だった。しかし私の内面は小池事務所に勤めていた時と何も変わっていない。ただ変わったとすれば、一つだけではない、いくつものファションの形を知ったということだろう。結局、ファッションなんて記号に過ぎないのだろうかと思った。仲間同士を見分ける記号。私はこのグループに属し、こういう価値観を持っています、という旗印。もしそれだけだとしたら、ファッションとは何と寂しいものなのだろう。なにかおかしい、と思った。そして、いつも自分の格好に自信がもてないでいることが情けなかった。「私はこれ、これでいい」という揺るぎないものが欲しかった。