人生の不思議

2012.02.08

私はジンーライムのグラスを手にぼんやりと天井を見上げてみた。天井には大きな扇風機がゆっくりと回っている。音楽も聞こえる。オアシス、「モーニングーグローリー」だ。懐かしいな。「いくら謝ってもらっても仕様がないと思う。それにテレビなんて無理。××はその話題でまた一際輝いた光の人生を歩むかもしれない。でも私は影よ」「つたく」ジャーナリストは舌打ちして、いらいらした様子で煙草を吸った。また眼鏡のフレームを触る。「卑屈だな、あんた」「卑屈なの、私」「あんたと××は別々に育てられた。しかし生年月日も星座も血液型も同じだ。これは占いなら同じ結米が出るだろう?そうじゃないか?なのに人生は光と影に分かれた。そこが人生の不思議だ。片方は光に包まれた人生だ。あんた、想像してみろよ。くやしくないのか?そこにもうひとつの可能性を見ないのか?」「もう見ない。私はただの影。それでいいの」「そうかな?××の写真集を見たことがあるか?」「あるわよ。話題だし。お客が持ってくるし」「じゃあそこに写った輝きを見て何かを感じないか?彼女のこれまでの人生を想像するんだよ。誰もが彼女の可愛さにメロメロになるんだ。その太陽のような表情。完璧なプロポーション。現代的なセクシーさ。同性からも好かれるくったくのなさ。男からは交際の申し込みが殺到するんだ。ショッピングするだけで彼女のまわりには人集りができる。やがてモデル事務所から声がかかる。彼女は当然のようにスターダムを駆け上がる。幾つもの雑誌で特集が組まれる。背の高い、ハンサムな人気カメラマンを恋人にする。甘くゴージャスな恋愛だよ。誰もが彼女を太陽のように扱う。店に入るだけでその店は輝き始める。浜辺にいると曇った空か急に晴れたりする。笑顔を振りまくと誰しもの心は盗まれてしまう。彼女はいつも話題の中心だ。雑誌のグラビアから、テレビ画面から、彼女の美しさは輝く糸になって我々に届く。やがて幸せな結婚が待っている。どこかのハンサムな金持ちが彼女に甘いプロポーズの言葉を囁く。なあ、何かを感じないか?」